設備保全のスキルアップ、その第1回目の記念すべき記事です。

その記念回にどんな内容を記事にしようかと迷ったのですが、表題の通り「検査装置の保全」をテーマにしたいと思います。

なぜ私がこのテーマを選んだかと言えば、実は私の20年に渡る設備保全は検査装置が中心だったからです。

あなたが現在、あるいは将来、検査装置の保全を担当する時この記事を参考にして頂ければと思います。

 

検査装置の保全に潜む大きな落とし穴

あなたがある検査装置の設備保全を担当しているとしましょう。ある日、製造現場からSOS、あるいはクレームが上がってきます。

「良品歩留まりが異常に低い。調べてみると良品がかなり不良品に誤判定されている。何とかしてくれ!」

こんな内容のクレームです。

そこであなたはさっそく検査装置の点検を行います。どこかに異常がないか調べます。しかし、装置的には全く異常は見つかりません。でも、製品を流すとやはり良品が不良品に判定され、予定歩留まりに達しません。

ではなぜ、突然良品が不良品と判定されるようになってしまったのでしょう?

そして設備保全担当のあなたはどう対処すればいいのでしょう?

私が20年間、検査装置の設備保全をやってみて、一番危険だと感じた落とし穴は、ズバリこれです。

『(不良品は落とせるけど、)良品がとれない。』

すなわち不良品の流出は防げるけど予定歩留まりを確保できず、その結果生産計画に支障が出ると言う問題です。

 

検査機

 

話はちょっと変わりますが、私が勤務していた半導体工場では自社製品の他に、他社の半導体、電子部品の各種検査も受注していました。

様々なお客様が、様々な検査の依頼案件を持って来社されます。その時、ほぼ100%、お客様が口にすることは、

「この不良品、検出可能ですか?」

これですね。

お客様はその判断、検討のために不良品サンプルを持参されます。複数の不良モードがあればサンプルもそれに合わせて複数持参されるのです。

お客様の、「不良品を選別することは可能かどうか?」と言う質問に対して、私の回答はほとんどの場合「イエス」です。

 

YES

 

あなたは意外に思うかも知れませんが、ほとんどの商品の、ほとんどの不良は検出する事が可能です。よっぽど特殊な条件設定が必要なもの以外は可能です。

 

ところが、不良品は検出できてもここに大きな問題が1つ存在ます。それこそが検査装置の保全における大きな落とし穴でもあります。

それはズバリ、

『不良品をはじくことは出来るが良品がとれない。』

と言う問題です。

すなわち、不良品を流出させない代わりに良品までも不良品に分類してしまい、予定歩留まりが達成出来ないと言う問題です。

でもあなたは不思議に思うかも知れません。「不良品をはじくこと」と、「良品を選別すること」が別のことなのか?同じことじゃないのか?そう思うかも知れませんね。

なぜなら、製品の中から不良品をはじけば結果的に良品が残る訳で、それは良品を選別することになるからです。

 

良品と不良品

 

しかし、実際の製造現場では「不良品をはじくこと」と、「良品を選別すること」は同じにならない場合があるのです。それが冒頭にもお話した、ある日突然製造現場から上がって来るSOS、クレームです。

いったい私も何回そんなSOS、クレームを製造から受けたか、数え切れないほどです。それほど多く経験しています。

製造現場では製品を作って出荷している訳です。毎日、毎週、毎月の生産計画があり、予定出荷数が決まっています。従って、検査装置もその予定数に合った能力が求められます。

検査装置で最も重要なことは、良品を選別して生産計画通りに予定の数量を後工程に流すことです。

 

不良品を落とすこと、良品を選別すること

話が分かりにくく、回りくどいかも知れません。早い話、絶対に不良品を流出させないでおこうと思えば、検査規格をどんどん厳しくすればいいのです。

例えば、長さが5cm以上は良品、5cm未満は不良品と言う検査規格があったとします。この5cmと言う値を検査の閾値(しきいち)と言います。良品、不良品の判定基準値ですね。

 

このとき、限りなく5cmに近い長さの製品が出てきた時に問題が発生する可能性があります。5.00cmは良品だが、4.99cmは不良品です。検査機の精度、検査能力が追い付けばいいのですが、それも限界があります。

検査能力によっては、4.99cmが不良品になったり、良品になったり、どちらにも判定される可能性があります。

そのため、通常は検査規格を出荷規格よりも厳しく設定します。つまり、5cm以上が良品であれば、検査規格は5.5cmに設定するわけです。そうすれば仮に閾値である5.5cm付近で誤検査しても、不良品が流出するリスクは各段に減ります。

 

もっと極端に言えば、6cm以上を良品にしてしまえば、不良流出率は完全にゼロにできるかも知れません。しかし、製造現場でそんな設定は絶対にしません。

不良流出をゼロにできるのに、なぜそうしないのか?

それには簡単、明白な理由があります。良品を捨ててしまうことなるからです。本来、良品として出荷できるはずの5.5cmや5.7cmの製品を不良品扱いにして捨ててしまうことなるからです。

良品歩留まりが著しく下がってしまい、出荷数を確保するためには投入数をロス分を見込んだ多めに設定する必要が出てきます。これは当然、製品コストや納期に大きな影響を与え、利益の減少、市場競争力の低下へつながります。

 

では、コスト優先、出荷数優先で、多少不良品が混じってもいいから検査規格を甘くすべきか?

それも違います。不良流出を前提とした検査規格など意味がありません。

 

 

さて、先ほど私がかつて半導体工場で検査装置を担当していた頃、色々なお客様から検査の依頼を受けることがあると書きました。

そして、ほとんどの場合、検査で不良品を落とすことは可能だと言いました。しかし、それは良品まで落としてしまうリスクを持っているのです。不良品は落とす、良品は通す、その両方を実現するのは容易ではありません。

 

先ほどの例で、5cm以上は良品と言う製品があったとして、実際の製品の品質が、良品はほとんどが6cm以上あって、不良品が出る場合には全部3cm以下だったとしたらどうでしょう。

良品は6cm以上で不良品は3cm以下。このくらい、良品と不良品の差が大きければ検査は楽です。検査装置で不良品を見逃したり、良品歩留まりが下がったりすることはないでしょう。

 

でも、良品は5.0cm~5.1cm、不良品は4.8cm~4.9cmだったらどうでしょう。これは全く話が別で難しい検査になります。

むろん、それなりに検査精度の高い、高精度の検査機を作れば不可能ではありません。検査装置にそれだけの投資が可能なら、対応は可能でしょう。

 

ここで私が言いたいのは、検査装置はみな不良品を落とすことと、良品歩留まりを確保すること、この2つの役割を負っているという事です。片方だけを重視することは出来ません。

不良品流出を恐れるあまり、良品歩留まりを犠牲にしてしまう対応、これはよく現場でみられることです。緊急時の暫定対応なら仕方ありませんが、恒久対策になり得ないことは明白です。利益を減らし、市場競争力を失いかねません。

あなたが検査装置の設備保全を行うにあたって、絶対にこの点は配慮する必要があります。

 

まとめ

かつて私の元へ検査依頼をしに来られたお客様のほとんどは不良サンプルを持参されましたが、実は良品サンプルも必要なのです。不良と良品の差がどれほど存在するのか、それが分かって初めて不良の検査が可能かどうかの判断が出来ます。

良品と不良品の差がほとんどない製品はそれなりの高精度の検査装置が必要であり、場合によっては不可能と言う判断まであり得ます。

 

そして面倒なことに、製品は良品であっても、ある程度の幅を持っています。検査の検討段階、あるいは検査装置の導入段階では問題なく検査できていても、その後に良品の範囲内で製品にばらつきが発生すれば、そこで良品を不良品とする危険性もあります。

何度も書きましたが、私が現場から良品歩留まりでクレームを受けた原因の多くはそれです。検査装置導入時の良品と、後になって流れてくる良品に差があるのです。でも、どちらも良品です。

 

こんな時、もしも検査装置の精度が製品の規格に追いつかないのであれば、それはもう設備保全担当の範囲を超えた問題であり検査装置の仕様を見直す話まで遡る必要が出てきます。

いくら検査装置で閾値の設定をやりくりしても、不良品と良品の区別が出来ない品質なら保全の手には負えません。

 

お手上げ

 

今回は検査装置における設備保全の危険な落とし穴について私の体験を書きました。

検査装置は、設備保全の立場から言えばどうしても不良品の流出を防ぎたく、良品歩留まりを犠牲にしがちです。

不良品が確実に落とせるか、そこばかりに注目し保全作業もそこを目標にしがちです。しかし、いくら不良品が確実に落とせるからと言って、本来良品として出荷できるものまで不良品にしては意味がありません。

あなたは不良品の流出に気を配るのと同じくらい、良品歩留まりにも注意を払って下さい。ちゃんと予定歩留まりをクリアしているか。それをチェックするのも設備保全の仕事です。

もしも良品歩留まりに異常が発生し、その原因が検査装置の精度不足と思われるなら、これは設備保全の業務範囲外で解決が必要です。あなたがしかるべき部署へアラームを発信しましょう。